おこじょさんと30女道

おこがましくもアラサーを名乗る30女おこじょとその周辺人物たちの恋愛と結婚とお仕事を綴るなど

ギラギラが毒になる日

「今日お時間ありますか?
っていうか今おこじょさんの会社の近くのスタバに来たんですけど」

このLINEが福士蒼汰からのメッセージだったら飛んでいったのに。

仕事が山積みでイライラしていたところ
とある知人未満の青年Aくんから嫌な予感がするお誘い。

「そうなんだ!でもごめん、忙しいから今は出られないし遅くまで帰れないと思うんだ」

断ったつもりでした。
このぐらいの柔らかい表現で空気読んでくれと思う私はやはり日本人。

「大丈夫です!僕読みたい本あるんで読んでますね。待ってるんじゃないんで気が向いたら来てください」

マジか。
それ確実に待ってるんだよね?
重い、重いよぉぉ!

彼は友達主催のパーティで名刺交換した
20代半ばの保険営業マン。
名刺見た瞬間
「近々営業かけられるかもな」
と思ったカンは正しかった。
ピンポンピンポーーーン!!
嫌なカンってかなり命中率高くて凹む。
お互い彼氏彼女がいることが分かってて
お互いタイプでも親しくもなくて、
そんな男女がお茶するなんて
保険かア〇ウェイか宗教の勧誘ぐらいやろ。

数時間後、ほんの少しの罪悪感から
もしかしてまだ待っているのではと
「今から帰宅します」
とLINEを送ったらすぐ既読になり
「はい!お待ちしています!」
忠犬ハチ公から返信がきた。

根負けする形でとりあえずスタバにいくと、本当は早く営業をかけたくて
ウズウズ、いやギラギラした彼がいた。

そう、この目、この雰囲気だ。
まだ「女の子」と呼ばれる年齢だった頃。イキって夜遊びしてたクラブや合コンで出会った軽い男子たちがワンチャン狙いで口説いてくる時のそれ。
自分がカモだって自覚する瞬間。

「こんなに遅くまで働いて、それでもキラキラしてて綺麗ってすごいですよね」
鼻からキャラメルフラペチーノするところだった。(嘉門達夫先生オマージュ)
第一声がそれかいな。
とりあえず褒めろって先輩に言われてるんだろうか。
その時の私は全身ユニクロでメイクも落ちていた。キラキラどころかドロドロ。
(福士蒼汰が待っていたらメイク直しもしたであろうが)
見え透いた嘘やお世辞は
逆に「コイツを信じてはならぬ」というアラートになってしまうんですね。
メモメモ。

スタバの閉店時間が近づくと
Aくんはさっそく本題!と言わんばかりに自分の仕事について語り始めた。
今日は別に営業しようと思ったわけじゃないこと、とにかく話してみたかった、
仕事の価値観が合いそうだから云々。
そんな言い訳と共に全然さり気なくなってないさり気なさで自分の売り歩いている商品の情報を小出しにしてきた。
共通の知人から聞いたっぽい私の
中途半端な情報とからめながら。

彼も必死なんだ。
そう思ってとりあえずフンフン話を聞いていたのですが、
「あっ、彼から保険を買うことは一生ないわ」と思う失言をしたんですね。
コレ、個人的にもすごく学びになった。

「今日は何人のお客さんと会ってたんですか?みんな新規ですか?」
って何気なく聞いたら

「はい、5人にお会いしました。皆さん新規です。僕は新しい人にどんどん会うスタンスなんで!」

多分Aくん全然悪気ない。
でもそこは嘘でも
「いつもお世話になってるお客さんに会ってきました」
「前からのお客さんから相談受けてました」の方が絶対印象いい。
Aくんはそれまで
「保険って一生のお付き合い」
「うちはアフターケアも充実」
と言ってたけれど
その一言で
「この人は売ったら終わりスタイルなんだろうな」って邪推する人もいるかと。
もしくは全然契約取れてないのかな、とか。

とりあえず、このまま話してても時間の無駄であると思ったと同時にスタバのお姉さんが閉店を告げに来たので単刀直入に「何故わたしが保険に入る気がないか」を理路整然とご説明申し上げ、饒舌だったAくんをハチ公の銅像のように静かにさせて帰宅した。

以来Aくんからの美味しいお店情報も
御機嫌伺いLINEも無くなった。

加えて言うと、私は彼から「本を読んで待ってる」という返事が来た段階で既にAくんと契約することは無いだろうと悟っていた。

もちろんこの場合の正解は
「お忙しいんですね!今日は早く帰って寝てください。また落ち着いたら美味しい〇〇でも食べに行きましょう」
みたいな気遣いだろうけどそれが言えないならせめて仕切り直しが必要だったのですよね。

相手から搾取したい、とまで悪意はなくても自分の思い通りにしたい、希望を叶えたい、得したい、褒められたい、認められたいっていう欲深さは殆ど相手に伝わって疎まれる。そしてゴールが遠くなる。

帰りの終電の中でA君に初めてあった時、彼が口にした言葉を思いだした。

「僕、普段帰り遅いんですけど同棲してる彼女が頑張って起きて待ってるの嫌なんですよね。あと要らないのに手作り弁当とか。好きでやってるから気にしないでって彼女は言うんだけど」

そう。それなんだよAくん。